国立市にある分譲マンション「グランドメゾン国立富士見通り」の事業中止と建物解体が発表され話題になっています。
7月の引き渡し直前のタイミングとあって国立市民からも驚きの声があがっています。
事業者である積水ハウスは6月4日市に対し「法令の不備はないが周辺への影響に関する検討が不十分だった」との理由で事業の廃止を届け出ました。
前代未聞の竣工直前に起きてしまったマンション解体問題の経緯と理由を考えます。
経緯
マンションの概要
- 東京都国立市
- 「グランドメゾン国立富士見通り」 JR国立駅から徒歩10分
- 地上10階建て (全戸南向き・角部屋)
- 総戸数 18戸 (1フロア2戸)
- 価格:7000万円代~8000万円代
- 建設事業者:積水ハウス
- 7月に入居者に引き渡し予定
- 2024年6月3日 事業中止・建物解体を決定
これまでの主な経緯 *事業者:積水ハウス
2021年 2月 | 事業計画 公表 | 11階建て 高さ36,09m |
2021年 9月・10月 | 住民説明会 | 10階建て 高さ33,12m |
→市民:さらにを求める | ||
2022年 7月 | 国立市長 更なる高さ低減などを求める 指導書を事業者に交付 | |
2022年 9月・10月 | 住民説明会 | 10階建て 高さ30,95m |
2022年 11月 | 市が承認 事業者と手続き終了を締結 | |
2022年 12月 | 事業者が住民に工事説明会 | |
2023年 1月 | マンション建設着工 | |
2024年 5月28日 | 市民が市議会に陳情書を提出 | |
2024年 6月3日 | 事業中止・マンション解体決定 | |
6月4日 | 市に事業廃止を届け出 |
こうして年表を見ると、事業計画の公表からマンションの建設着工まで2年もかかっています。
マンション建設の計画から着工まで、長いと一年、通常は数カ月~半年くらいらしいので、いかに着工にこぎつけるまでに時間を要したかが分かります。
マンションの階数は11階→10階 高さは約5mほど低く変更されました。
建設に反対している近隣住民の方たちからすれば、十分な低減ではないと感じるかもしれないです。
1フロア2戸の全18戸ですから、マンションとしてはコンパクトサイズ。
事業者側からすれば10階建てが事業性としての限界だったとも想像できます。
住民とは平行線のまま、それでも2022年11月に市が承認して着工に至りました。
ただ、2024年5月に市民が市議会に陳情書を提出しているので、市長は建設を承認したけれど、一部市民は納得できないまま建設は進んでいった。
このあたり、市としての対応はどうだったのかが気になります。
事業の公表から3年以上かかり、ようやく竣工となるはずだったのに…
今回の積水ハウスの事業中止・建物解体の決定について、国立市長の永見理夫氏は6月12日に開かれた市議会においてこのように述べています。
周辺地域は再び解体工事に直面することになり影響が必ずある。積水ハウスに対し住民に丁寧に対応するよう今日文書で要請した
条例や法令に基づいて適切に進めてきたが、今回突然廃止届が出され、その後、問い合わせても文面以上の回答は得られず、きのう突然ホームページ上に文書が出された。建てるときに住民の不安を踏まえて建物のボリューム感の低減などを指導してきたが、積水ハウスのやり方は非常に遺憾だ
市長からしても寝耳に水。
マンション解体を決定した事業者と、突然の決定を受けてご立腹の市長。この決定に驚く国立市民とホットする一部の近隣住民。
もう三つ巴なのか四つ巴なのかぐちゃぐちゃです。
国立市って面倒くさそう…という印象を与えたしまったことは残念です。
緑も多くおしゃれなお店もあって個人的にとても好きな町です。
マイナスイメージが付いてしまうのは悲しい。
結果論になりますが、結局解体してしまうなら、どうして建てる前に立ち止まらなかったのか?
誰もが疑問に思います。
引き渡し直前でなぜ事業者はこのような決定を下したのか、次に理由を考えてみます。
事業中止の理由
富士山
6月11日、積水ハウスのホームページに事業中止に関するお知らせがアップされました。
これを読むと、やはり直接的な原因は「富士山が見えない」景観問題だったようですね。
事業者としても相当な不安材料を抱えながら着工スタートしたんだなと。
そりゃそうですよね。ここまで2年かかったわけですから。
段々と完成が近づくなか、いや、これ、想像以上に富士山見えないよ。どうしよ?となった。
いや、いやいやいやいや、それを今言うーーーー?
何とも不思議な展開。景観に関してはさんざん議論してきたわけです。
最終的に10階建てと決まったあとも、さらなる低減を求められていた…
これだけAIの技術が発達してて、その辺はいくらでもシミュレーションできたのでは?
と思ってしまいます。
日当たり問題
日照権問題ですね。
マンションの北側に住んでる方には影響大です。個人的にも日当たり問題は重要だと思います。
もし、家の前に高層マンションが建ったら…冬場辛すぎ…
自分も当事者になったら、反対したくなるかもしれません。
訴訟の可能性
遠景からの富士山眺望に問題がある。と認識した事業者ですが、着工後も訴訟になる可能性は常に頭の中にあったはずです。
国立市には前例があります。
20年ほど前になりますが、2001年に完成した14階建てマンション(約44m)をめぐり、周辺住民らが事業者に対し「高層階の撤去を求めた訴訟」をおこしました。通称「国立マンション訴訟」です。
当時かなり話題になりました。
結果としては住民側が敗訴したんですが、一審判決では住民らの訴えが認められ、マンションの20メートルを超える部分(7階以上)の撤去を認める判決を出したんです。
すでに建築済みの建物に対して撤去命令が出された前例はなく、かなり衝撃的でした。
住んでる方がいるマンションでどうやって7階以上を撤去するの?そんなこと可能なの?
と当時話題になりましたが、結局は事業所側が勝訴しました。
今回のマンション解体のニュースを知ったとき、まっさきに20年前の裁判を思い出し、「またマンショントラブル?」と思いました。
事業者がこの前例を知らないとは思えないですし、国立市民が景観問題に強いこだわりがあることは分かっていたはずです。
ここで事業者にとっての悩みのタネですが、このマンション、半分くらい売れていなかったそうです。
訴訟になる可能性がかなりある。その中で、マンションが完成した後も販売していかなればならない。
人生で一番高い買い物です。訴訟中の、近隣住民から白い目で見られている(と思われる)マンションを購入したいと思うか?
自分なら買いません。
安らげる我が家を求めたい。家族と幸せに暮らしたい。
訴訟中のマンションは避けたい。
事業者としては訴訟のリスク、企業イメージへの影響を考慮したのかもしれません。
コンパクトサイズのマンション
全18戸のマンションとしてはコンパクトなサイズです。
これが100戸以上の大規模のマンションだったら話は変わっていたかも。
しかも思っていたより販売戸数を伸ばせなかった。
18戸のうち未だ半分近くが売れていない状態。
訴訟を懸念しつつ今後も販売を続けるのか、事業中止とするか。
積水ハウスほどの大企業からすれば、企業イメージを守り、事業中止をとる方が結果としは傷が小さく済むと判断したかもしれません。
解体に向けての動き
9月5日、都内で開かれた決算会見で積水ハウスの仲井嘉浩社長は以下のように陳謝しました。
「富士山は日本にとって特別な存在であると認識しており、事業を中止したことは間違っていないと思っているが、決断が遅かったためにさまざまな方にご迷惑をかけて非常に申し訳ない」
解体工事はおよそ10億円をかけ来年8月まで行われる予定。
「近隣の方には新築時と解体時で二重に長期間にわたってご迷惑をおかけすることになるが、できることは丁寧で安全な解体工事を行うことに尽きる」と述べました。
今となっては後の祭りですが、入居が決まっていた方の気持ちを考えると胸が痛みますし、二度と起こらないよう再発防止に努めて欲しいです。
まとめ
今回の件は法律上の問題はなかったわけですから、一体何のために法があるんだろう?
とも思いますし、当事者になってみなければ分からないこともたくさんあるはず。
互いの立場がある上で、妥協点が見つけられれば良かったのですが、今回は多くの人が傷ついてしまいました。
都市開発が抱える難しい問題だなと痛感しました。
今後、マンションが解体され、その跡地がどうなるのか?
追記していきたいと思います。